文字書きとはいえない

小説を書き上げるまでの記録

私は試験会場が好きだった。

今週のお題「試験の思い出」


私は試験会場が好きだった。

特に受験会場が、好きでたまらなかった。

合否を決める、シビア極まりない空間なのに、少しだけワクワクするのは何故だろう。


同じ場所に集まってくる同じような年齢の人たち。みんな、緊張した面持ちで表情をカチコチにしてやってくる。同じもの(試験)に勝負を挑みにやってくるのだから、みな、似た顔になるのはあたりまえだ。

表情筋をいびつに歪ませて、じっと前を見る目にはやたらにチカラがこもってて。行き場のないチカラを目に宿らせたまま、ある者は周りの様子を窺い、ある者は参考書を開いて悪あがきをする。


独特の空気に包まれた試験会場。そこがいつもは、たくさんの学生が集まるごく普通の教室なのだと思えば、そのギャップに妙な気持ちになる。

そこはまだ、私たちの居場所ではない。今日一日、仮の居場所としてここにいることを許され、集められているだけなのだ。そのことが、ひと言も口をきく者がいなくても、私たちが妙な連帯感で繋がっているような気にさせて心が高揚するのだ。

何より、同じ敵に立ち向かう名前も知らない同志や仲間のような。互いにはじめて出会ったのに間違いなく味方だとわかる、そんな関係に連帯感を感じざるを得ない。


試験が終わって教室を出る頃には、私たちの絆は、より純粋で強くなっている。

「みんなで合格して、この学校に通えればいいのに」って甘ったるく考えてしまうほどには、私たちの距離は近くなっている。


そうして、私たちは無言で離れていくのだ。

4月、桜の下でまた出会えることを祈りながら。そのときは、どうぞよろしく。と心の中で呟いて。


そんな甘ったるい気持ちになれる試験会場が、私は好きだった。