文字書きとはいえない

小説を書き上げるまでの記録

「李歐」を読んでいる。

高村薫さんの「李歐」を読んでいる。

タイトルは知っていたけれど読んだことがなかった。

1960年代から70年代、80年代とお話は進むのだけれど、さすがにこの時代のことはほとんど知らない。

当時の中国と日本の関係も知らないし、中国語にも特に興味がないので、見開きいっぱいに埋め尽くされた文字と合わせて、最初は読み終えられるんだろうかと心配になったけれど、半分を過ぎてめちゃくちゃ面白くなってきた。


昔、栗本薫さんの作品をよく読んでいた。彼女の文章とは全く違うタイプなのに、何だか似ている気がしたのは、書かれた年代が近いからかもしれない。

知らない時代のことなのに、今の自分の周りの世界が小説の中の世界とリンクしてるんじゃないかと思ってしまうほど現実感がある。

まるでその時代に生きているような、実際に見てきた世界のなかにいるような気持ちになる。


雨の降りしきる夜の海や、錆びた工場の屋根。閉ざされたシャッターの向こうで密かに稼働する機械の音。油でぬかるむ床と、工場を舞う鉄粉。鼻をつく鉄と汗の匂いも。そういうのが文章から滲み出てきて、五感を刺激する。


飛び交う言葉は日本語ばかりではない。

実際は中国語なのだけれど、それよりも「大陸の言葉」という方がしっくり来る気がする。雄大に広がる大地と、ひどく混沌としていて、先の見えない暗澹とした何か。その中に潜む熱情。

そういう曖昧なものに惹きつけられる。主人公と同じように、まだ見たことのない「大陸」に想いを馳せながら読んでいる。


皆さんの感想通り、主人公の2人の男の恋愛とも友情ともつかない関係はひどく艶かしくもあり、もどかしくもある。互いの心の奥底で、互いだけを求め合っている感じが堪らない。

物語はやっと中盤だ。これから、2人はどうなるんだろう。


それにしても、文章が難しい。字を追うのがやっとでなかなか進まない。面白いけど、読むのが大変だ。